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校長ブログ

~校長室の窓から~「放送朝礼のお話 社会科 大原先生」

2023.01.17

 高校生の頃、家族と離れて暮らしていた僕は、一時、兵庫県神戸市の長田区という街に、祖父母と暮らしていました。最寄駅は高速長田駅。家まで歩いて30分ほどありましたが、不思議とバスなどを利用することなく、街中をボンヤリと歩いて帰る毎日でした。

 駅を出て通り過ぎる長田神社商店街。幼い頃から通ってきたこともあり、親戚や知り合いによく声を掛けられます。「しゅんくん、元気か、これ食べ」とお菓子をもらい、本屋では「あのマンガ入荷したし、取っといたからな」。そしてたまたますれ違った知り合いのおばあちゃんからは「せっかく会うたんやし、これで好きなもん買うたらええ」とお小遣いまでもらう始末。ちなみにこのおばあちゃんは、ずっと僕は親戚だと思っていましたが、ある日祖母に「あれ親戚ちゃうで」と知らされた時には驚きました。

 あまり声をかけられるのも気恥ずかしく感じる年頃でしたが、街の人の声はあくまでも温かく、心からのものであることにも気づいていました。

 大きな木に囲まれた長田神社の境内横を通り、祖父母宅に帰ると、ひっきりなしに親戚や知り合いが出入りして、お喋りが大好きな祖母との話を楽しんでいる風景が日常で、きっと同じような家庭がたくさんあったことでしょう。

 それから3年後、記憶に残るその街の風景は、大きく姿を変えることとなりました。

 震災から数年。復興事業の結果、キレイな住みやすい区画の新しい街が完成しました。しかし多くの方が亡くなり、街を離れ、引っ越しをした祖父母宅を訪れる人も次第に少なくなり、やがて祖父母も亡くなりました。僕が長田を訪れることも少なくなりました。

 街の姿は、そこに生きる人たちの姿です。住む人が変われば、街の姿が変わるのは仕方がありません。

 神戸市に生まれ育った将棋の永世名人、谷川浩司さんは次のように述べてます。
「被災された方々が一番辛いのは、忘れ去られることです。10年20年と苦しみは続きます。最後の方の生活を取り戻すまで、寄り添い続けていくことが必要です。」

 僕は今年、長田を訪れようと考えています。でもそれは、記憶の中の街の姿を思い出すためではなく、今の人たちが懸命につくる、新しい街の、新しい魅力に出会うためです。それは同時に、時が経っても変わらない街の良さを再発見する機会にもなるかと思います。皆さんにも、被災から立ち直ろうとする街をいつか訪れて、その魅力に触れてもらえたら嬉しいです。

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