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校長ブログ

~校長室の窓から~「放送朝礼のお話(理科 森田先生)」

2022.06.14

みなさんは、植物を育てたことはありますか?

私は、大学院生のとき、種から油がとれる作物の研究をしていました。それまで大学では、分析化学の研究をしていたので、植物の研究は初めてでした。そんな私に、指導教官の先生が、こうおっしゃいました。

「植物は動物と違って、水が足りなかったり、病気になっても、自分で声をあげたり動いたりすることはできない。だから、いつも植物のようすをよく見て、何かあったらすぐに気づけるようにしなさい。」

その時は、あまりピンときませんでしたが、すぐに、これは大変だぞ、と思い知ることになります。

というのも、外で育てる作物の研究は季節のサイクルに左右されるので、年に一度しか栽培ができません。枯らしてしまったら、その年の成果はゼロで、次のチャンスは来年になってしまうのです。

おまけに、私の作物はイネのように広い場所でたくさん育てるものではなく、木だったので、ポットに植えて限られた数だけしか育てられません。また、海外の研究施設から頂いた種だったので、無駄遣いもできません。

かくして、薬品や機械を相手に、自分の都合に合わせて好きな時に何度も実験をしていた日々から、大雨の日も台風の日も休みなく植物に合わせる日々になりました。

雨が降ったら、急いで自転車でハウスに向かい、天窓をしめ、台風の前日には念入りにハウスが飛ばされないよう補強し、台風が去ったら一気に晴れ上がるので、すぐに風を通さなければなりませんでした。

生育調査や測定は、朝早くから始まり、夕方前まで続きます。私の作物は熱帯原産で、真夏に一番元気よく成長します。日中は常に40℃超えのビニールハウスの中で、ぐんぐん育つ作物とは対照的に、私は毎日滝のような汗を流し、主食がアイスと1食の素麺になりました。

そんな日々の格闘の中、毎日じっと見ていると、不思議なもので、「今日も私と違ってツヤツヤしているな」「あれ、今日はなんだか元気がないな」ということがわかるようになってきたのです。こうして、枯らすことなく無事に最初の1年を終えることができ、これを3回繰り返しました。

このことを、教員になって、担任を持つようになった頃に、ふと思い出しました。それは、「思いやり」について当時の生徒たちに話していたときです。

私たちは、自分の気持ちを言葉にして伝えることができます。しかし同時に、言葉にならない思いや感情も、人知れず抱えているものです。

いつも元気に見えるあの人も、悩みや悲しみをそっと笑顔の下に隠しているのかも知れません。言葉にならない見えない心に気づくには、日ごろからその人のことをよく見て知っていることが必要なのです。みなさんは、いつも一緒にいる人たちのことを、よく見ていますか?

大学院での日々を思い返したとき、私は、作物の栽培を通して、思いやりの原点を学んだような気がします。

その時から、自分が担任を持ったクラスでは、必ず植物を育てることにしています。

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