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校長ブログ

~校長室の窓から~「放送朝礼のお話(外国語科 宮内先生)」

2022.06.07

 おはようございます、外国語科の宮内です。今月の月目標は「無償性」です。

 今日は、私が大学3年生の頃に経験したことをお話ししようと思います。

 当時、私は大学の少林寺拳法部に所属していました。ある日、ルクセンブルク人の顧問の先生に彼の母国で開催されるイベントに招待され、急遽ルクセンブルクに行くことになりました。フランスまで一人で行き、当時フランスに留学中だった部活仲間と合流し、一緒に電車でルクセンブルクに行くというざっくりとしたプランを立て、私は急いで一番安い航空チケットを購入して飛行機に飛び乗りました。

 フランスの空港に到着した途端、私は絶体絶命のピンチに陥りました。

 というのも、到着時刻が深夜の3時であることに全く気付いておらず、到着した空港は真っ暗、誰一人スタッフがいない、どうやって待ち合わせ場所の駅に行けばよいのかわからない、おまけに当時free-wifiもなく携帯電話がつながらなかったのです。外国の真夜中の空港でたった一人途方に暮れ、とても怖くて、心細くて、泣きそうでした。「そうだ!友達に公衆電話で電話をしよう!」と思いましたが、残念なことに小銭しか使えず、お札だけを両替してきていた私は電話すら使えませんでした。

 突っ立っていても仕方がないので真っ暗な空港を早歩きでさまよい、どうにか駅に流れ着きました。しかし切符の券売機の前で、また絶望しました。全く日本の券売機と作りが違っていて、どんなに眺めても操作方法が分からなかったのです。

 「今度こそおしまいだ」と思っていると、たまたま日本人女性とフランス人男性の老夫婦が歩いてきて、「どこまで行くの?切符を買うお手伝いをしましょうか」と声をかけてくださり、奇跡的に切符を買うことができました。

 電車の中は薄暗く乗客はほとんどおらず、窓の外は墨汁のように暗かったのを今でも覚えています。停車する駅の看板が見えず、音のこもったフランス語のアナウンスも聞き取れず「いつ下りればいいのか分からないな」と困っていると、先ほど助けてくれた女性が心配そうにやってきて「次の駅よ」と教えてくれました。

 何とか待ち合わせの駅にたどり着きました。しかし、愚かにも私は友達と何時に、しかも広大な駅のどこで待ち合わせをするのか決めていませんでした。勿論、友達はまさか早朝に既に到着しているとは思ってもいませんでした。駅の真っ暗な地下通路で、大きすぎるスーツケースを抱えた私は、またもや行き詰ってしまいました。

 すると、後ろから若いフランス人の男性が急ぎ早に通り過ぎる際、私を見て立ち止まり、何と日本語で「大丈夫ですか」と話しかけてくれたのです。聞くとその人は日本に留学したことがあるとのことでした。私は藁にも縋る思いで「携帯電話を貸してくれないか」と英語でお願いしました。その人は何の躊躇もなく携帯電話を差し出し、それを使って私は無事に友達に連絡と取ることができ、待ち合わせの駅に到着したことを伝えることができました。

 あの時私を助けてくれた人たちのことを思い出すと、「どうして夜道を放浪している、あんな素性の分からないちんちくりんなアジア人を助けてくれたのだろう」と未だに不思議に思い、同時に圧倒的な感謝の気持ちが込み上げてきます。あの場で私に切符の買い方を教えたり、携帯電話を貸したりすることは、彼らにとって何のメリットもなかったはずです。むしろデメリットとリスクの方が大きかったでしょう。それなのに、あの日本人女性とフランス人の青年は私を助けてくれました。

 あまりにも偶然が重なったので、さすがの私も「あれは天使だったのか?」と思ったことがあります。しかし確実に言えることは、あの時目の前にいたのは、自分と同じ「人間」だったということです。誰もお互いの名前、年齢、職業、住所、文化的背景など、何一つ知らない中で、あの場にあったのはそれらすべてをそぎ落とした、純粋な「困っている人を助けたい」という気持ちと、「助けてもらってありがたい」とい気持ちだけだったのだと思います。それらの気持ちが、いとも簡単に国境を超えるということを私は身をもって学びました。

 最近ニュースで、ウクライナからの難民をポーランドの一般市民が自らの家に招き入れ、無償で住まわせ食事や服などを提供している映像を見て衝撃を受けました。いつまで戦争が続くか見通しが立たない中で、危険な人物かもわからない外国人を、私財をなげうって保護し続けるのはかなり勇気のいる行為だと思います。自分が同じ立場だったら果たして同じ事ができるか分かりません。しかし一つ言えることは、助けられた難民の方々は、あの日フランスで救われた私と同じように、一生感謝の気持ちを忘れないだろうということです。

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