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校長ブログ

~校長室の窓から~「放送朝礼のお話(理科 小林先生)」

2022.05.09

今月の月目標は生命の尊重です。

生命の尊重と聞いて、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。自分自身や誰か人間の命の尊さでしょうか。あるいは、可愛らしい動物や美しい花の命でしょうか。 今日は、まったく光があたることなく消えていった地味で小さな命についてお話したいと思います。

埼玉県に武甲山という石灰岩の山があります。石灰岩は日本で唯一100%自給可能な鉱物資源であり、日本中の石灰岩の山が採掘によって今日も削りとられています。こうした山には、石灰岩の特殊な土地だけに生息する貴重な動植物が暮らしています。たとえば、武甲山には、チチブイワザクラという世界中で武甲山にしか生えていない植物があります。ところが、この植物が生えていた場所のほとんどは、石灰岩採掘のために爆破されて失われてしまいました。しかし、チチブイワザクラは可憐な花を咲かせる植物だったため、人間に注目され絶滅を防ぐための対策が行われるようになりました。

一方で、まったく気にもとめられず、滅ぼされた生物もいます。たとえば、大分県の津久見という場所にある石灰岩の山には、コゾノメクラチビゴミムシという5mm程度の小さな虫が住んでいました。しかし、この虫の住む山は石灰岩採掘のために破壊され、世界で唯一この虫が住んでいた洞窟も跡形もなく消えてなくなりました。コゾノメクラチビゴミムシは、鉱山開発のためにこの世から絶滅したのです。

しかし、こうした小さな命を守るために、「今すぐ採掘をやめるべきだ」という権利が誰にあるでしょうか。石灰岩は、建物や道路、薬品などの材料として、私たちの文化的な生活に欠かせません。また、石灰岩に関連する産業で生計を立てている人々も沢山います。役に立たない虫を守ることよりも、人間の生活を守ることを優先するのは普通の感覚でしょう。

ここまでの話で何が言いたかったかというと、私たち人間は、あらゆる場面で自然環境に対して搾取的であるということです。しかも、たちの悪いことに、都会に住む人間は直接手を下していないので、自分たちが搾取的であることに無自覚です。こんなことを言ってしまうと元も子もありませんが、生命の尊重と、人間の文化的生活は完全には両立できません。しかし僕は、生命の尊重を理想として掲げることはとても大切だと思っています。人間には知恵があります。生命の尊重と人間生活が現在より少しでも両立する未来へと、世の中を変えていくことはできるはずです。そのためにも皆さんには、色々なことを勉強して、世界を広い視点で捉える力をつけてほしいです。そして、日本の経済発展の裏で人知れず消えていった小さな虫がいたことも、たまには思い出してほしいです。

 

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